バブル期、「世界一の企業」からの転落

5月8日、NTTは、データセンタの運営などを担うNTTデータの完全子会社化を発表した。その背景には、1990年代以降、NTTの地位が大きく後退したことがある。NTTは、ある意味で、バブル崩壊後の日本経済の低迷を象徴しているとも言えるだろう。

記者会見を終え、握手するNTTの島田明社長(左)とNTTデータグループの佐々木裕社長=2025年5月8日午後、東京都千代田区
写真提供=共同通信社
記者会見を終え、握手するNTTの島田明社長(左)とNTTデータグループの佐々木裕社長=2025年5月8日午後、東京都千代田区

バブルの絶頂期の1989年、NTTは世界最大の時価総額を誇る企業だった。ところが、その後の株価低迷もあり、2025年4月末現在、世界の時価総額トップは米アップル、2位はマイクロソフト、NTTは第199位に沈んだ。

バブル崩壊後、わが国の多くの企業は、新しいビジネスを生み出すことができなくなった。一方、米国ではIT革命で情報通信の重要性が大きく上昇し、大手IT企業が大きく成長した。また、中国、韓国、台湾は工業化を進め、世界的な水平分業体制を硬直することで圧倒的な競争力を高めた。残念だが、わが国企業はその波から取り残され、世界市場での地位は低下した。その象徴の一つがNTTともいえるだろう。

「電電公社」の遺産が足かせに

NTTは、元々、日本電信電話公社であり制約も多かった。研究成果の開示を義務付けた法律も、NTTの業績を圧迫した。また、関連企業を分割したことで、横断的な活動が思うように進まなかった面もある。そうした状況からの脱却を狙い、今回、NTTはNTTデータを完全子会社化し親子上場を解消する。

NTTは、データ関連事業で得たキャッシュフローを次世代半導体である“光半導体”関連分野につぎ込み競争力の回復を狙った。それは必要な方策だが、光半導体分野では先進の欧米に加えて中国勢の追い上げが顕著だ。わが国企業を取り巻く環境は厳しさを増しており、NTTの試みが成功するかは不透明な部分が多い。ただ、わが国経済の回復のためには同社の動きは必須で、是非とも成功してほしいものだ。