※本稿は、西野精治『スタンフォード大学西野教授が教える 間違いだらけの睡眠常識』(PHP文庫)の一部を再編集したものです。
睡眠リズムは、ちょっとしたことでも乱れる
本や雑誌、ネットの記事などでみなさんが目にする一夜の睡眠経過の図は、睡眠のイメージを把握してもらうために、わかりやすくきれいな模式図として描いたものです。
実際には、そんなにくっきり明晰に脳波の変化が視覚化できるわけではありません。睡眠経過を見るには、便宜的に30秒単位で睡眠段階を判定していきますが、脳波はその30秒の間にもダイナミックに変動しています。
睡眠リズムというのは、ちょっとしたことでも乱れます。
健康的な睡眠の場合、入眠直後の第1周期のノンレム睡眠では一晩のうちでも一番深い眠り(これを「徐波睡眠」「深睡眠」ともいいます)が出て、その後につづくレム睡眠は短い。そして明け方に向けて、深いノンレム睡眠は出なくなり、レム睡眠が長くなっていきます。
睡眠に何の問題も抱えていない若くて健康な人は、こうしたパターンが保持されやすいのですが、不眠や中途覚醒(夜中に何度も目が覚め、その後なかなか寝つけないこと)のある人、あるいは「睡眠時無呼吸症候群」のような睡眠障害のある人は、パターンがまったく違ってきます。
たとえば睡眠が十分足りていない人では、深いノンレム睡眠が明け方にも出るケースがよくあります。そういう状況では、朝の目覚めが悪く、すっきり起きることができません。
30代で高齢者のような睡眠パターンが出る人も
歳をとると、寝つきがよくない、中途覚醒や早朝覚醒(望む時刻より2時間以上早く目覚めること)が起きる、といった不眠症状を感じる人が多くなります。血圧が高めとか血糖値が高めとか、いろいろな“疾患予備軍”的な変調も抱えがち。そうなると、正常な睡眠リズムはますます出にくくなります。
こういう話をすると、「では、そうなるのは何歳ぐらいからか?」と気になる方も多いと思いますが、これもまた個人差があって一概にはいえません。
なかには、30代でも高齢者のような睡眠パターンが出る人もいます。加齢が原因といっても加齢そのものが多くの要因をはらんでいますから、それが何によるものかもわかりにくいのです。
睡眠の問題は、内的要因、外的要因、身体要因、いろいろな影響を多面的に受けるので、良好な睡眠を妨げている原因の本質がどこにあるかを突き止めるのは簡単ではありません。
睡眠とは、そのくらいフラジャイルな(こわれやすい)もの、乱れやすいもの。そしてまだまだ謎が多いものなのです。