ダイエットに取り組むうえで、食事や運動以外に気をつけるべきことは何なのか。『お米を食べるダイエット』を提唱し、1年で12kgの減量に成功した医師・梅岡比俊さんは「ダイエットに睡眠不足は大敵である。まずは『質より量』を意識して睡眠時間を確保することは、ダイエットの効率を上げてくれる」という──。

※本稿は、梅岡比俊『医者が教える最高のやせ方 科学的に正しいお腹いっぱい食べられるダイエット法』(すばる舎)の一部を再編集したものです。

男は目覚まし時計をセットして眠る
写真=iStock.com/mapo
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睡眠不足はどんどん太る

2021年、OECD(経済協力開発機構)が行った国別平均睡眠時間の調査結果が発表され、33カ国中、日本は最下位でした。また2023年に行われた世界睡眠調査でも、日本人の平均睡眠時間は約6時間30分で、先進国のなかで最下位でした。

さらに、世界累計2000万ダウンロードを達成したスマホ用睡眠ゲームアプリ「ポケモンスリープ」のユーザーを対象とした国別平均睡眠時間の調査でも、日本は6時間38分で最下位という結果になりました。調査によって睡眠時間に差はありますが、総じて日本は世界でもっとも睡眠時間が短い「睡眠不足大国」ということになります。

こうした睡眠不足による経済損失は、なんと18兆円にのぼるという試算もあります。睡眠研究の世界的権威で、前述の「ポケモンスリープ」の監修者でもある筑波大学国際総合睡眠医科学研究機構長の柳沢正史教授は、日本人は眠りに無頓着で「睡眠を重視していない」と、あるインタビュー記事のなかで述べています。さらに柳沢教授は、日本人の睡眠不足が子供の頃からからすでに始まっていて、小学校高学年や中高生では、睡眠の不足がより深刻である可能性を各メディアで指摘しています。

私も医者として多くの患者さんを診てきましたが、その大半の方が明らかに睡眠不足でした。日本には「寝る間も惜しんで仕事をすることが美徳」とされる文化がいまだ根づいていて、「睡眠よりも仕事を優先するのが当たり前」という意識が強い人が多いことを痛感します。このような意識を変えていかないと、ダイエットの成功や真の意味での健康を手にすることは難しいと思います。

睡眠不足は認知症リスクも高める

なぜなら、睡眠不足を続けていると確実に太るからです。また、パフォーマンスや集中力、記憶力の低下など、たくさんの弊害をもたらすこともよく知られています。

アルツハイマー型認知症の原因となるアミロイドβタンパクの脳内での蓄積も促進し、認知症の発症リスクを2倍程度高めるとする研究もあります。睡眠不足が肥満を呼び込むというつながりは、あまり知られていないことかもしれませんが、理由を知れば当たり前のことだと理解できるでしょう。

食欲をコントロールする2種類のホルモンがあります。グレリンとレプチンです。

睡眠が不足すると、食欲を増進させるホルモンである「グレリン」の分泌量が増加し、同時に食欲を抑制するホルモンである「レプチン」の分泌量が低下します。つまり睡眠不足の状態では、2つのホルモンの分泌量の変化により、食欲を抑制する力が減少し、食事量が増えます。その結果、太ってしまうというわけです。

また、体内に「グレリン」が増えると、こってりしたラーメンやポテトチップス、ケーキやクッキーなどの高脂肪の食べ物を欲するようになります。2004年にアメリカのスタンフォード大学が行った研究調査があります。この研究では、睡眠時間と食欲との間に一定の相関関係があることが示されました。

8時間睡眠の人と5時間睡眠の人を比べると、5時間睡眠で睡眠不足状態にある人では、食欲を増進させるホルモン「グレリン」の分泌量が8時間睡眠の人よりも約15%多く、食欲を抑制するホルモン「レプチン」の分泌量も約15%低かったとのことです。