※本稿は、アンデシュ・ハンセン『多動脳』(新潮新書)の一部を再編集したものです。
どうやれば集中力を高めることができるのか
身体を動かすとドーパミンのレベルが上がり集中力が強化されるわけだが、ここで改めてそれが意味するところを考えてみよう。例えばこの本に集中できているのも脳で化学反応が起きているからだ。ドーパミンが受容体にドッキングし、本の内容を興味深いと感じている(といいのだが)。
人間の情動や知能──その1つが集中力だが──が、たった1つの物質と脳で起きる反応に影響されるものだなんてにわかには信じ難い。ならばなおさら、気分を良くして集中もさせてくれるドーパミンを運動で増やせるという知識には価値がある。しかも最近では定期的な運動を長期間続けたらどうなるかもわかってきている。
ドーパミンは脳の中でチロシンヒドロキシラーゼという酵素によってつくられる。「ドーパミン工場」に例えると、その工場ではチロシンを原料としてドーパミンという製品がつくられていく。ではその生産スピードを速めたり、生産量を増やしたりはできるのだろうか。ラットを使った実験ではそれができた。実験に使われたのは落ち着きのなさでは他に類を見ない多動性のラットで、ADHDの薬の開発にも利用されている。
ドーパミンがドバドバ出る行動
このラットの多動性がどこからきているのかというと脳の中のドーパミン工場が小さいせいだ。ところがハムスターホイールで走らせると急に態度が落ち着き、チロシンヒドロキシラーゼのレベルも上がった。つまり走ることでドーパミン工場の性能が上がったのだ。
この結果は研究者だけでなく一般の人たちも知っておく価値がある。工場の性能を上げるためには定期的なランニングを数週間続ける必要があり、効果はすぐには表れない。しかしドーパミンのレベルは運動をした直後にも上がるので、運動は短期的にも長期的にもドーパミンのレベルを上げるという結果になる。定期的に運動すれば得することばかりというわけだ。
集中力の向上はほんの数分運動しただけでも効果を感じられるが、本当に大きな効果は定期的に運動を続けていくことで得られる。
ではどのくらいの時間走るのが一番効果的なのだろうか。10分なのか1時間なのか
──ある実験では1日30分走る方が1時間よりも効果が出ている。