ヤブ医者のように効かない薬を処方し続ける
それでもEUはヤブ医者のように、効かない薬を処方し続ける。そして、それが、中国やインドの強化、あるいは、中国とロシアの連携などという、思わぬ地政学的変動まで引き起こしている。
5月12日の制裁に続いて、6月12日、EUの欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長とカラス副委員長が、18回目の対ロ制裁計画を発表した。今回の焦点はエネルギーと金融で、これにより、22年に誰かに破壊された独ロ間の海底ガスパイプライン「ノルドストリーム」の復旧も禁じられた(最近、米国が買い取るという噂もあった)。
ちなみにこのパイプラインはロシアとドイツの財産だが、ドイツは事件の究明に熱心でなく(米国政府は否定しているが、CIAが深く関与していたという指摘もある)、犯人探しはうやむやのままだ。ただ、解明しないまま、今、「修繕はロシアの利益になるから」といってこのパイプラインを放棄すれば、まさに破壊されたことは正しかったと認めるようなものだ。ドイツ政府はそれでいいのだろうか?
クラウザー氏の記事によれば、5月、ロシアの実業家の集まりでプーチン大統領はこう言ったそうだ。「彼ら(西側)は、自分たちに害のあることはしないように見せかけている。でも、彼らはそれをしている。あの愚か者どもは」
善悪論から離れた現実的な対話こそが必要
EUは、「ウクライナの防衛は民主主義の防衛である」とし、「ロシアにはこの戦争に対する全責任がある」と主張している。ただ、どの戦争においても、どちらが悪いかという議論が一致を見ることは絶対になく、善悪論だけに固執すれば戦争は終わらない。もし、EUのエリートたちの目的が、戦争をできるだけ長引かせ、ウクライナに武器と資金を送り続けるということならば話はわかるが、ただ、その場合、持久戦で有利になるのはロシアのほうだろう。
ウクライナ・ロシア両国の犠牲者をこれ以上増やさないため、本当に停戦を望むなら、EUは「どちらが悪いか」という議論は横に置いて、現実を見るべきだ。そして、その現実的な動き、つまり、プーチン大統領と対話すべきだという意見が、今、ようやく与党の社民党の一角から出てきたことに、私は一縷の希望を託している。