「クルド人密着番組」はなぜ延期されたのか?

NHKが4月5日に、埼玉県川口市のクルド人について放送したドキュメンタリー番組「フェイクとリアル~川口 クルド人 真相~」が偏向しているとして批判され、NHKが再放送を延期したという話を、産経新聞が報じた。番組は、クルド人問題を「フェイク」「ヘイト」と一面的に捉えた描き方で、「産経ニュース」のニュース画像が、出典を記述することもなく無断で使われていた。あたかも産経記事がヘイト投稿を助長したかのようだったと同紙は主張している。

この番組を私は見ていないが、クルド人問題は日本で起こっていることなので、報道が真実とかけ離れていれば、気づく人が必ずいる。そして、その人たちが声をあげれば、NHKは間違いを修正せざるを得なくなる。

しかし、もしこれが異国についてのドキュメントであったなら? おそらく多くの人はその内容を、疑うことなく信じてしまうに違いない。

「極右」「ナチ」と呼ばれる人気政党の正体

さる1月21日、やはりNHK(BS)が夜10時45分より、「ドイツの内なる脅威 躍進する“極右”政党」という50分ほどの番組を放映した。英米が共同で制作したもので、内容はドイツのAfD(ドイツのための選択肢)についてのドキュメント。ある米国人ジャーナリストがドイツに渡り、AfDの周辺を取材するという体裁だった。

ドイツ・チューリンゲン州で第1党となった右派政党「ドイツのための選択肢」で演説するビョルン・ヘッケ党支部長=2025年5月15日、チューリンゲン州エアフルト
写真=DPA/共同通信イメージズ
ドイツ・チューリンゲン州で第1党となった右派政党「ドイツのための選択肢」で演説するビョルン・ヘッケ党支部長=2025年5月15日、チューリンゲン州エアフルト

AfDというのは、2013年、ドイツの経済学者らが、EUの金融政策に抗議して作った党だった。ただ、その後、15年9月以来、メルケル首相が行った無制限な難民受け入れを批判したことで、急に注目を浴びた。それを機に、当初よりAfDのポテンシャルを強く警戒していた他党が、AfDに「反民主主義」、「極右」、「ナチ」等々のレッテルを貼り、メディアと共に激しく弾劾し始めた。

しかし、それから10年、国民が皆、それに踊らされたわけではなかった証拠に、AfDは着実に支持者を増やし続け、今年の2月末の総選挙ではついに第2党の座に躍り出た。NHKが前述のドキュメントを流したのは、その選挙のちょうど1カ月前だった。

ただ、見てみたら、このドキュメントはあまりにも酷く、どう贔屓目に見ても、内容は半分しか真実ではない。例えば、この番組の中で大きく取り上げられた、いわゆる“ヴァンゼー会議2.0”。