駆け込み乗車をする乗客に“まさかの言葉”

真夏の暑い日、ドアを開け放して停車した時は「暑い中、お待たせいたしました」と一声添える。また、急いで列車に乗ろうと走ってくる乗客には「焦らなくて大丈夫ですよ」と優しく声をかけることも。

当の本人は「自分では全然特別なことをしているつもりはないんですけどね。一生懸命に走ってくる人を見ると、つい言ってしまうんです」と控えめだが、日々定時運行のプレッシャーと戦う車掌として、なかなか言える言葉ではない。

「井の頭線の好きな車窓は?」と質問すると「冬の季節だと、吉祥寺駅から出てすぐ右側に富士山が見える時があるんですよ」
撮影=プレジデントオンライン編集部
「井の頭線の好きな車窓は?」と質問すると「冬の季節だと、吉祥寺駅から出てすぐ右側に富士山が見える時があるんですよ」

余談だが、筆者は電車の中で「駆け込み乗車は周りのお客様のご迷惑になりますので、絶対におやめください!」などと強い口調のアナウンスを聞くと、自分が注意されたわけでもないのにいたたまれない気持ちになってしまうことがある。

もちろん、駆け込み乗車は危険で、許されることではない。乗客の安全を担う列車長である車掌として、時に厳しい態度も必要だ。しかし、アナウンスを通じて伝わってくる車掌の隠しきれない感情が、乗客に伝播してしまうこともあるように思う。優しいアナウンスは、車内トラブルを抑制するという意味でも有効なのかもしれない。

車内トラブルを減らす効果も

その点について金親さんに聞いてみると、「今にして思えば、という感じですが……」と前置きしながら、思いを語ってくれた。

「人が他者に対して厳しい態度をとってしまうのは、自分の中で余裕がない時だと思うんです。そういったときに、こちらの声掛けで気持ちに余裕を持っていただき、周りのお客様に対しても優しい気持ちで接していただけば車内のトラブルも減るのかな、と。

あとは、自動音声が普及したことで、かえって耳慣れない車掌の声に、より聞く耳を持ってもらえるという効果もあるように思います」

そんな金親さんの温かみのあるアナウンスに「元気をもらった」「温かい気持ちになった」と、HPやお客様センターなどを通じて多くの称賛の声がよせられている。

時には、運転士による放送だと思い込み、乗客が運転士に「アナウンス、素敵でした」と声をかけることもあるそう。当の運転士は「自分じゃないんだけどな」と気まずい思いをしてしまうのだとか。