たった4週間で新卒を見極める
一方、昨今の医学部新卒者は、まず2年間、初期臨床研修医となり、将来どの診療科に進むにせよ、ひと通りの診療科を一定期間ずつローテーションする(詳細は紙幅の都合もあり割愛)ことになっています。つまり、行く先々で短期間かつ異なる指導環境に身を置くことになるわけです。
私が研修医の教育指導をおこなっている医療機関も、ゼロから一人前の医師にまで育て上げるという長期的スパンでの医師養成をおこなうことはありません。医学部卒業後2年目の初期臨床研修医の地域医療研修を受け入れていますが、彼らの当院での研修期間は一人あたり4~5週間。出会って、なじんで、慣れてきたところで研修期間は終わってしまいます。
つまり、この短期間のあいだに、彼らの有するコンピテンシーを見きわめ、課題(学習目標)を提示しおこなわせ、観察し、フィードバックをし、再びおこなわせて、評価するという作業を繰り返しやらねばなりません。
したがって研修医の5つのPについては、研修開始初日の出会ったその瞬間から、私の持つすべての感覚器官を駆使して観察していくことになります。その観察をもとに、学習目標到達への道筋を個々に合わせて微調整していくわけです。
最初に「あなたはお客様ではない」と伝えること
研修期間がほんの1カ月しかない研修医であっても、患者さんからみればひとりの医師。まず研修医には「あなたはお客様ではありません。うちのチームの一員として患者さんに接してください」と一番最初に伝えます。そしてじっさいに患者さんと主体的かつ積極的にコミュニケーションを持つよう指導していきます。
この方略により、Peacefulness、Politeness、Punctualityについては、最初の数日でほぼ把握できます。一方、Priority、Proactivenessについては、もう少し把握と評価に時間が必要です。
山本五十六の「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」という言葉をご存じの方も多いでしょう。旧日本軍の軍人の言葉ではありますが、これは今もいかなる現場でも通用する、指導者・教育者の心得の基本の「き」といってもよいと思います。
医学教育の現場では、一人前の医師として独り立ちさせることが大きな目標であるので、どこまで任せられるかということを評価しなければなりません。とはいえ、なにも知らない新人に、説明も指導もせぬまま初めてのタスクを課して、「なんだやっぱりできないじゃないか」と言うのでは、評価になりませんし、とても教育にはなりません。