※本稿は、西口一希『ブランディングの誤解』(日経BP)の一部を再編集したものです。
函館の「ハンバーガー店」
北海道の函館に訪れると、観光客が必ず立ち寄るといわれる「函館ラッキーピエロ」というハンバーガー店があります。筆者も、この本の執筆中の24年9月に函館観光に行った際に訪れました。それまでは同店について、全く知りませんでした。
検索サービスで「函館観光」「函館グルメ」といったキーワードで検索すると、検索結果に海鮮系の飲食店や朝市と並んで、このハンバーガー店と、そのメニューである「チャイニーズチキンバーガー」が必ず表示されました。
函館と無関係に思える「ハンバーガー」「チャイニーズチキン」に、疑問を抱くばかりでしたが、まさしくこの時点で、筆者の中では函館という言葉に連想した強いブランディングが形成されようとしていました。ちなみに、驚くことに、函館市内にラッキーピエロは17店舗ありますが、マクドナルドはわずか4店舗のみです。

強く記憶に残ったワケ
観光の前半こそ海鮮三昧でしたが、徐々に食傷気味になり、このハンバーガー店を訪れることになりました。
筆者が伺った店舗は、観光名所から少し離れた街中にある十字街銀座店という店舗でした。この店舗、派手な看板と装飾で100メートル先からでも分かります。
店内に入れば、なぜかサンタクロースとクリスマス関連のグッズや装飾品であふれかえっており、さながらクリスマスのイベント会場のようです。この予想外の装飾に、さらに心をつかまれました。店内には、たくさんの観光客が並んでおり、同時に多くの地元の方がテイクアウトの注文に並んでいました。
メニューを見ると、ハンバーガーだけではなくカレーや定食など多数のメニューがあることにも驚かされました。このときは折角なので、素直に看板メニューと紹介されていた、チャイニーズチキンバーガーを注文しました。
店内は、懐かしい食堂のキッチンのようです。注文後につくるため、時間がかかると事前に言われていましたが、実際に15分以上たってからハンバーガーが提供されました。15分も待ったハンバーガーは筆者の経験では日本で初めてです。
食べてみると、他では味わったことのない中華風のボリューミーなハンバーガーで確かにおいしい。個性が強いため、毎日食べたいとは思いませんが、観光という特別なイベントでの食事としては、楽しく、おいしく、そして強く記憶に残りました。
3日間の函館旅行の間に多くの観光名所、海鮮を楽しみましたが、結局、最も記憶に残ったのはラッキーピエロでの体験でした。函館に期待していた観光や海鮮は、ある意味想定通りで、ラッキーピエロだけが、予想外だったため、強く記憶に残ったのです。
あまりにも気になり、帰路、ラッキーピエロの歴史なども調べてみると、実は、まさに、本記事で伝えたい中小企業のブランディングの本質が徹底されていることが分かったのです。