わざと批判をあびる行動をとる中国

――通告なしの演習が行われたことに対し、オーストラリアとニュージーランド政府が懸念を表明しました。中国は「それぞれの国にそれぞれのやり方がある」と意に介さない姿勢を示しています。

【小原】中国は相手を驚かせて批判されればされるだけ、中国が大国であることを誇示し、アメリカに認めさせることができると考えているのではないかと思います。

私が小泉さんと始めた民間インテリジェンス組織であるDEEP DIVEとしては、中国が動き出す前の段階で、中国がどの海域で、どの程度の規模の演習を行うかを察知して、お知らせしたいと思っています。

まず私と小泉さんの知見を活かし、得た情報を分析します。さらに、衛星画像を公開し、多くの方から「ここでも何かが起きている」「今回は前回とこういうところが違う」と指摘してもらうことで、いろいろな情報が集まることを期待してもいます。

【小泉】中国船が活動を始める際には燃料を補給したり、様々な物資を積み込むのですが、食糧にしても弾薬にしても、どのくらいの量を積んだら何日活動できるのかというのは、いわゆる補給長のような任務についてきた人、つまり「同業者」でないとわからないことがあるんですよね。

難しいのは、動き出した時点ではあくまでも演習なのか、威圧のためのものなのか、戦争準備なのかという区別がつかないことです。しかし本当に中国の戦争のやり方がわかっている人が見た場合、こけおどしなのか本気なのかはある程度、区別がつく。

専門家が「最も怖い」と考える瞬間

【小泉】ロシアの場合でも、ウクライナ侵略前のロシア軍は今までと違う、これまでの演習では一度も見たことがない動きをしていたことは明らかでしたから。

最終的にやるかやらないかは、プーチンと同様、習近平にしか分からないことですが、「普段と違うことをしている」ところまではウォーニングを出せると思うんです。

それが注意喚起レベルなのか、台湾にいる駐在員を脱出させる段階なのかというところまで踏み込むことができれば、DEEP DIVEが仕事をしたと言えるだろうと思います。

小泉さんと小原さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
小原凡司さん(右)と小泉悠さん

――実際のところ、台湾有事の危険性はどの程度高まっているのでしょうか。

【小原】台湾の頼清徳総統は中国を「境外の敵対勢力」と呼んで警戒を強めており、台湾内のいわゆる親中派を根こそぎ断とうとしています。一方の中国も黙っているわけにはいかない。国民からも「台湾分離独立主義者(頼清徳総統)に勝手をさせていいのか」と言われてしまいますから。

そこで中国は軍事演習などを行うのですが、これが当初から計画されたものなのか、台湾やアメリカ台湾政策の動きに対する対抗としてやっているのか、どちらの面からも見る必要があります。

計画通りにステップアップさせている間はいいのですが、実際には「これ以上圧力をかけられない」というところまで来ているのに、国民から「なぜもっと圧力をかけないのか」と言われるかもしれません。その時が本当は一番怖い。