人間にとって「食べること」にはどのような意味があるのか。俳優の黒柳徹子さんと医師の鎌田實の対談をまとめた『トットちゃんとカマタ先生のずっとやくそく』(実業之日本社)より、一部を紹介する――。
シーサーとハイビスカス
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家族で同じものを食べる時代

【トット】たしかに食べることって、楽しみだし大事です。家族みんなで、ちらし寿司でも何でもいいんですけれど、同じものを食べている時代は、いま思うといい時代でしたね。毎食、自分の好きなものだけ食べればいいという、いまとは違います。

私は母の精進揚げが大好きでした。細く切ったごぼうや人参、玉ねぎ、さやえんどうなんかをかき揚げにした、お野菜のてんぷらなんですけど、これが大好きで「何が食べたい?」と聞かれると、笑っちゃうくらい、いつも「精進揚げ!」と言いました(笑)。もちろんどんなに好きでも毎日精進揚げを食べられるわけはなくて、いつもは、まず父の好き嫌いに合わせて母がお料理を作ってました。

父が好きじゃないから店屋物てんやものもほとんど取らなかったし、うちはちょっと独特の食卓だったかもしれませんけれど。それで特別ではないけれど、何かのときに好きなものを母に作ってもらえると大喜び。姉弟きょうだいそれぞれに思い出の食べものがあったと思うし、そういうふうにわが家の食卓がありました。

「昔の食卓」で教わったこと

【トット】うちだけではなくて、昔の家族は一緒にごはんを食べていましたよね。きらいなものがあって、いやだなと思っても、みんなで一緒に食べるからきらいだとは言っていられないし、きらいなものでも食べなさいと言われます。父親が怖い存在でしたからね。あるときは、きょうだいで取り合いをしたかもしれないけれども、それもまた、分け合って食べるとはどういうことかという教育につながります。いまのように自分の好きなものを家族バラバラ、チンして好きなだけ食べていいというのはちょっと……。

【カマタ】おいしいものがあるけれど少ししかない、それを家族で分け合う。少しここでがまんして、ひとりで食べ過ぎちゃいけないんだということも教わりますね。ところがいまは、お金があればなんでも手に入るというので、好きなものを好きなだけというふうになってしまった。