バケツを頭にかぶって逃げたが、なぜか落ちたバケツを「取れない」
このとき、自覚はなかったが、女性は爆弾の破片に当たっていた。
右肩のつけねから右手全体を吹き飛ばされたが、不思議と痛みはなかったのだという。女性は「谷間に落ちてゆく」ような悲しみに襲われながら、あとで病院で縫い合わせてもらえるならと思い、右手をバケツに入れて先へ進んだ。しかし、焼け出された人にバケツだけを盗まれ、捨てられた右手は犬がくわえて持ち去ってしまった。

子を亡くした母親の話は、涙なしには読めない
自分が大けがをした話もつらいが、子どもを亡くした体験談も、涙なしには読めない。
当時、帯屋町に住んでいた38歳だった女性には、小さい子どもが7人いた。1歳から16歳まで五男二女。高知市が空襲されるようになり、夫が疎開先を見つけてきて明日には出発しようという夜に、大空襲に遭った。

「もう、どこも火の海です。(中略)逃げていくうち、帯屋町三丁目あたりで、人がひとり倒れています。抱きおこしてみると、(一緒に走って逃げていた)長男です。(中略)背中の子どもはギャーギャー泣くので、あと髪ひかれるものの、長男は動こうとしませんので、このままおったら、親子ともに焼け死にますから、ヨタヨタと出てきました、背中の泣き声につられて――」