二宮和也氏へのインタビューをまとめた新書『独断と偏見』(集英社新書)が発売された。アイドルの取材をしてきたライターの村瀬まりもさんは「新書を読んでがっかりした。ジャニー喜多川氏による性加害が認定された後に行われたロングインタビューなのに、出版社側はその核心に触れる質問をしていない」という――。
第78回カンヌ国際映画祭7日目の2025年5月19日、映画『8番出口』のフォトコールに参加した二宮和也さん
写真=Sipa USA/時事通信フォト
第78回カンヌ国際映画祭7日目の2025年5月19日、映画『8番出口』のフォトコールに参加した二宮和也さん

「新書版」で発売された二宮和也氏のインタビュー本

もう、こういう「お察し」インタビューは止めましょうよ。

二宮和也『独断と偏見』(集英社新書)
二宮和也『独断と偏見』(集英社新書)

6月17日に発売された集英社新書、二宮和也の『独断と偏見』を読んで、そう思った。まだ、こんなことを続けるんですかというがっかり感と、なぜ新書という形にしたのかという違和感が、読後も抜けない。

ジャニーズ雑誌である『Myojo』、『Duet』(子会社のホーム社発行)を有する集英社で、嵐の二宮和也が女性誌『MORE』に連載していたエッセイの編集担当者と組んで出す新書。そう知ったときから、本に載せられるテキストは、おそらくジャニー喜多川氏による性加害問題の核心には触れず、アイドルグループ嵐の活動休止と再開の詳しいいきさつも明かさない内容だろうと思っていた。そして、この本の中で二宮和也が語ったことは、まさしく想定の範囲を出ないものだった。

筆者も、長年、アイドル雑誌に関わってきた。この新書の10章のタイトルは「心機一転」「適材適所」に始まり「二宮和也」で終わる。編集者が四字熟語のお題を出し、その言葉に関連する質問に二宮が答えていき、合計で100のQ&Aになるという手法は、まさにアイドル雑誌でよくやるパターン。そうすることでアイドルから意外な言葉が出ることを狙ったり、彼ら彼女らがパブリックイメージとは違って、仕事や人生、恋愛などについて深く考えていることを見せる狙いがある。

ジャニーズ事務所からいち早く独立した理由が語られる

本書のQ&Aで最もボリュームを割かれているのは、二宮が2023年10月にジャニーズ事務所から独立したあとの話だ。同年、イギリスBBCの報道番組をきっかけに、故・ジャニー喜多川氏による所属タレントなどへの性加害が明るみに出て、9月7日にその姪である藤島ジュリー景子社長らが会見。ジャニーズ事務所はSMILE-UP.へと社名変更し、被害者への補償に専念。10月にはそれまでの所属タレントの多くが移籍したSTARTO ENTERTAINMENTがエージェント制で設立されることなどが発表された。

つまりタレントに対する独立や契約期間などの縛り、抑圧は建前上なくなった。あの強権をふるってきたジャニーズ帝国がこんなに簡単に崩れるなんて……と、マスコミにいる誰もが驚く急展開の中、活動休止していた嵐の5人の中で誰よりも早く独立し、個人事務所「オフィスにの」を立ち上げたのが、二宮だったのだ(嵐としての活動はSTARTO ENTERTAINMENTと契約)。

「これからの仕事を考えたときに、世界基準で信頼や評価を得られない可能性のある事務所にいたままで仕事をするわけにはいかなかったから、独立の決断は早かったよね」(『独断と偏見』)