社員と信頼関係を築くにはどうすればよいか。経営塾の塾長の大坂靖彦さんは「待遇差があると不満が出ると考えがちだが、すべて同じ待遇にすることが真の公平とは言えない。社員の事情を把握し、一人ひとりに合わせた対応をすることこそ真の公平だ」という――。

※本稿は、大坂靖彦『中小企業のやってはいけない危険な経営』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

どの社員にも同じように接するのは公平なのか

「社員を公平に扱う」。このテーマのポイントは2つあります。

1つは、そもそも公平とは何か、という点。そしてもう1つは、公平は長期的にしか実現できないという点です。

「私は社員を徹底的に公平に扱っています」という社長は、よくいます。社員を不公平に扱えば、必ず不満が出ますから、公平にすることが大切だ、というのです。

しかし、そういう社長の話をよく聞いてみると、どの社員にも同じように接して、一律に同じ待遇などを与えることを「公平」だと考えているのです。極端にいえば、全員が同じ勤務時間、同じ仕事内容で、同じ給料だったら公平だろう、という具合です。

しかし本当は、社員の価値観やモチベーション、また、抱えている事情や状況などは、一人ひとり違います。それらをしっかりと把握して、各人の希望に合った条件なり待遇なりを与えることこそ、真の公平なのです。

それは表面的に見れば、不公平に見えます。

不均衡な状態の天秤
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長期的に見た公平とは

例えば、みんな9時に出社しているのに、ある人は10時から出社しているとします。しかし、その人は親の介護があって、ヘルパーさんがくる時間の関係でどうしても10時からしか出社できないという事情がありました。それなら、10時からの出社を認めます。これは一見不公平に見えるかもしれませんが、事情が異なる人に、同じように9時に出社させれば、その人だけ重い負担を背負うことになります。そのほうが不公平だと考えることもできます。

今度は他の社員が結婚して子どもができたとします。そして、保育園への送り迎えがあるから、他の人は5時まで働くところを、4時に退社しなければならないとします。そうしたら、今度はその人は4時での退社を認めます。

すると、短期で見れば、特定の人だけが優遇されているように見えても、中期、長期と長い目で見れば、すべての人がそれぞれの事情に応じて配慮されているということになります。結局、それが全員にとっても公平になるというわけです。