フリマアプリの普及で加速する過剰消費の連鎖
そのことを私は、日々の診療を通しても実感しています。「買ってから後悔する」あるいは「捨ててから後悔する」ことを繰り返してしまう方が少なくないからです。
なかには「買ってから後悔して売る。売ってお金が入ると、また高揚感が出てきて、本当は必要のない物を買ってしまう。それでまた後悔して、また売って……」ということを繰り返しているという方もおられました。
最近ではフリマアプリなどネット上のサービスを使って、個人同士で物を売ったり買ったりすることがすっかり身近になりました。
とても便利で、物を大切に再利用できる画期的なサービスですが、残念ながらこうした便利なシステムが、さらなる過剰消費の連鎖を生んでしまっている現状も見逃せません。
「捨てる快感」と「手に入れる快感」は似ている
以前クリニックで、「捨てることに快感を覚える、その感覚は、買うことで生じる快感とよく似ている」とおっしゃっていた患者さんがいらして、印象的でした。
高揚した気持ちの勢いにまかせて、要・不要を考えずに捨ててしまい、「あー、あれは捨てなきゃよかった」と後悔して落ちこんでしまう。そんな気分のアップダウンを繰り返す人が少なくないのです。
なかでもとくに気をつけたいのが、ファッション感覚で「ミニマリスト」を自称する人たちの影響です。
「物を持たないのがかっこいい」とのポリシーのもと、極端に物を減らし、なかには人間関係までもスパッと、まるで服についたホコリや糸くずを払うかのごとく切り捨てる人がいます。
捨てることの高揚感から、人間関係においても勢いにまかせ、「つい、やりすぎて」しまうわけです。
でも本当のところは、心が追いついていないことにご本人は気づいていません。肝心なことは、こうした人はミニマリストという言葉を使って、「人と向き合うことをしない選択」をしているということです。
他者と心をこめて向き合うことができない、その背景には自分自身と向き合い、自らの存在をあるがままに認めることへの臆病さが垣間見えるのです。
物や人をどんどん捨てていくことの快感とは裏腹に、ますます孤独感を深め、日々が寂しいものになっていく――。
はたと気がついたとき、本当に一人きりであることを感じた……そんな苦しさを抱えてクリニックにいらっしゃる方が、ここ数年とても増えていることを実感します。