仕事のできる一流のビジネスパーソンは、苦手な人とどんな距離感で接しているのか。これまで1万人以上を分析し、「アジアの組織開発コンサルタントトップ10」にも選ばれた経営コンサルタントの佐藤美和さんは「一流は総じて、周囲から敬遠されている人とでも普通に接している。ネガティブな話のときは、壁打ち相手に徹するといい」という――。

※本稿は、佐藤美和『世界のハイパフォーマーを30年間見てきてわかった一流が大切にしている仕事の基本』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

言いにくいことをどう伝えるか

「うわー、気が重いな」

先輩のミスを指摘する、懇意にしている取引先にクレームを言う、他部門の怖い人の仕事にダメ出しをする……。仕事だとは思うものの、言いにくいことを相手に伝えるのはやっぱり嫌なものです。定年延長や継続雇用制度で、これからは元上司に言いにくいことを言う立場になることだって十分に考えられます。そんなことは考えただけで腰が引けてしまいます。

言いにくいことは、相手を傷つけないような言葉や、遠回しな表現を使うと、少しは言いやすくなるものです。

例えば、自社に熱心に何度も通ってきて、とても好感が持てる営業担当者がいたとします。でも、残念なことに自社にはニーズがなかったら、どう断りますか?

「その商品は当社には必要ありません。購入することは決してありません。いくら熱く語ってもムダです。二度と来ないでください」とは、さすがに言えません。「とても素晴らしい商品ですね。社内で検討してみます」と耳当たりのいいことを言って、その場を乗り切ってしまいがちです。

自分では、やんわりと断ったつもりでも、相手からしてみると「検討する」と言われたら、数日後には「ご検討状況いかがでしょうか?」と連絡するのは当然です。その都度「まだ検討中です」と言ってやり過ごしても、いつかははっきりと断らなければなりません。

手のひらをこちらに向けて拒否をするビジネスマン
写真=iStock.com/sabthai
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こちらが断る前に、相手が察してくれたとしても「『素晴らしい商品』『検討する』と言ってたのは嘘なのか! その気がないなら早くそう言ってよ。これまでの時間を返してほしい!」というのが、偽らざる気持ちでしょう。

言いにくいことを遠回しに言うことを「オブラートに包む」と表現しますが、オブラートに包み過ぎると真意が見えなくなって、かえって人間関係を悪くします。

ストレートで思いやりいっぱいの断り方

一流は、言いにくいことほどストレートに伝えます。それでいて、相手の気分を害したり、関係にひびが入ったりはしません。本題に入る前に、「本当に残念なのですが」「申し上げにくいのですが」「ご期待に添えなくて心苦しいのですが」などの前置きをします。これをクッション言葉と言います。

クッション言葉は、陶器を箱に詰めるときに使う緩衝材と同じ役割をします。この前置きで、相手は「ネガティブな話なんだな」と心づもりができるので、このあとに続く厳しい話が与える衝撃を緩和することができます。

ただし、褒め言葉をクッション言葉にしてはいけません。「御社の商品は本当に素晴らしい。あなたの熱意のこもったお話には大変心を動かされました。しかし、当社では購入を見送ることにしました」と言われたら、「素晴らしくて、心を動かされたのに、なぜ買ってくれないの?」と思いませんか?

断る側は相手に配慮したつもりでも、クッション言葉と本題の内容に矛盾があると、不誠実な感じがします。その結果、こちらへの信頼そのものが揺らいでしまいます。

クッション言葉を伝えたら、言いにくい結論をはっきり言ってしまいます。それから、相手のこれまでの努力に対する賛辞を送りましょう。

例えば、「ご期待に添えなくて心苦しいのですが、当社では購入を見送ることにしました。残念ながら当社のニーズには合いませんでしたが、御社の商品は本当に素晴らしいと思います。それに、○○さまの熱意のこもったお話には大変心を動かされました。当社とは今回ご縁がありませんでしたが、これにめげずに引き続きがんばってください。個人として応援しています」

こう言われたら、断られた相手も気持ちよくこちらの決定を受け入れてくれるでしょう。一流と一緒に仕事をしたい人が社内にも社外にも多いのは、こんなストレートだけれど思いやりいっぱいの断り方にも理由があります。