2024年にエンゼルスからドジャースへ移籍した大谷翔平選手はどのような契約を交わしたのか。MLBジャーナリストのAKI猪瀬さんは「彼は10年7億ドルという史上最高額で契約した。驚きなのは金額だけではなく、前代未聞の一文が加えられたことだ」という――。

※本稿は、AKI猪瀬『ドジャースと12人の侍』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

大谷翔平選手=2025年4月26日、米国
写真=共同通信社
大谷翔平選手=2025年4月26日、米国

「勝ちたい」という思いに正直に動いた

2023年シーズンが終了してFA権を取得した大谷翔平。

その瞬間から全米を巻き込んだ「大谷翔平FA狂想曲」が始まった。

私は、大谷が2度目となる右肘手術を行い、2024年シーズンは一刀流となるためにロサンゼルス・エンゼルスに短期の大型契約で残留すると予想。慣れ親しんだ球団と施設で羽を休めてリハビリを行い、二刀流として完全復活を果たした後に大型契約で他球団へ移籍するのがベストな選択だと考えて、多くのメディアで持論を展開した。

結果はご存じのとおり、私の予想は木っ端微塵に吹き飛んだ。

大谷は、何もリスクはないが、スリルもない場所に留まるよりも、「勝ちたい」「ヒリヒリする9月を過ごしたい」という自分自身の思いに正直に動いたのである。

「エンゼルス残留」を選ばなかった理由

FA市場に出た大谷の移籍先は、最終的に古巣のエンゼルス、本命のロサンゼルス・ドジャース、対抗のサンフランシスコ・ジャイアンツ、大穴のトロント・ブルージェイズの4チームに絞られた。実際に大谷は最終4チームの球場やスプリング・トレーニング施設を訪問。大谷が新天地に求めたことは、ただ一点「勝利すること」、もしくは「勝利のための努力ができる環境であること」。

最終盤まで古巣エンゼルスは、交渉のテーブルに残り続けたと言われている。

だが、大谷の「年俸や契約金の大半を後払いにして、そこで生まれる余剰金を戦力補強に使い、勝利できるチームを作ってほしい」との思いが、「(マイク・)トラウトにも(アンソニー・)レンドンにも後払いなど提示したことがない」とエンゼルスのオーナー、アート・モレノには届かず、大谷のドジャース入りの流れが一気に加速していった。