「賃貸vs持ち家」という二項対立ではない
いろいろとリスクを挙げてきましたが、この記事の目的は、読者を賃貸派にすることではありません。現役時代は、資産形成も年金履歴も退職金も、何もかもが途上の時期です。そのような不確実性の中で、長期にわたる住宅ローン返済を確定させることは、家族(単身も)という最小単位で背負うリスクとして、大きすぎるのではないかという視点を持ってほしいのです。
リスクの大きさを見積もったうえで、「いざとなったときの逃げ道を用意できる」と判断すれば、現役時代の持ち家購入は選択肢の1つだと思います。
しかし、一般的には、過大なリスクとなるケースが多いので、一生賃貸か持ち家かといった二項対立で考えるのではなく、現役時代は柔軟性の高い賃貸住まい、リタイアが視野に入ってきた段階で、手持ちの資金や年金の受給見込額、退職金予想額など、ほぼ確定となった資産をもとに、購入を検討するのが合理的ではないでしょうか。
「可処分所得の1割」を積み立てる
そのためには、年間の世帯可処分所得の1割を、将来の住まいのために積み立てることを提案します。2人以上の勤労世帯の平均可処分所得は1カ月あたり約52万円です(※13)。1割を住まいのために積み立てると1年で62万4000円、35年間続けると元本だけで2184万円になります。
残りの9割を生活費(家賃を含む)や子どもの教育資金、万一のための備えなどに充てます。9割をどのように配分するかは家庭ごとに異なりますし、家族の中でも意見の違いが出てきます。住まいに何を求めるか、子どもの教育方針をどうするか、レジャーや趣味などにどのくらい費やすかなど、しっかり話し合って配分を決め、将来の住まいに充てる1割は死守するようにしてください。
家族間で折り合いをつけながら、単身の場合は、自分の消費意欲と向き合いながら、優先順位をつけて支出配分を決定する経験は、確実に家計管理能力を高めてくれます。キャリアと同様、家計管理能力も一生ものの資産です。
つまり、キャリアと家計管理は人生を左右する車の両輪のようなもの。受け身ではなく、自分の人生を自らデザインするという意識で取り組みましょう。
(※13)総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)」2024年