追加関税を回避するにはサプライチェーン全体を国内化せざるを得ないが、複雑に絡み合った供給網を短期間でアメリカ内にまとめることは、現実問題としてほぼ不可能な状況だ。

自動車業界のある専門家は、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の取材に対し、「こうした生産体制をまるごと変えるのは、(東岸の)メイン州全体を(中部)ワイオミング州に移すようなものです」と例え、ほぼ実現不可能であると強調する。完全国産化に至ればトランプ氏も満足だろうが、業界の現実を鑑みるに、ほぼ無理筋といった状況だ。

フォードF-150ライトニング
2022年のニューヨーク国際自動車ショーで展示されたフォードF-150ライトニング(画像=Kevauto/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

日本車が直撃を受ける理由

一方、追加関税の影響が最も早く及ぶとみられるのが、日本車だ。

ワシントン・ポスト紙によれば、レクサス、トヨタ、ホンダ、スバルなど日本の自動車メーカーは、アメリカ内に現時点で確保している在庫数が米国内メーカーと比較して少ない。このため、関税による調達価格の高騰は、ほぼ即座に市販価格に反映される見通しだという。

日本企業側としては、アメリカ市場への依存度が高い。このことから、日本企業への打撃は非常に大きくなるおそれがある――と同紙は言う。

日本の輸出産業全体を見ても、自動車は代表的品目のひとつだ。ワシントン・ポスト紙は記事を通じ、トヨタ、ホンダ、マツダ、日産、スバルといった日本の自動車メーカーがアメリカ市場に大きく頼っていると指摘している。同紙によると、2024年の日本の輸出額のおよそ6分の1を自動車が占め、輸出された車の3分の1がアメリカ向けだったという。

こうした状況で25%の追加関税が課されれば、日本車の値上がりとアメリカでの販売落ち込みは避けられない。さらに、自動車業界への打撃は半導体や鉄鋼などサプライチェーン全体に波及し、30年ぶりの勢いで上がり始めていた日本の賃金にも悪影響を与えかねない、と記事は論じる。

「対抗手段はほぼない」日本政府の苦境

突然の追加関税措置に、日本政府はどう反応したか。石破茂首相は25%の自動車関税に対し、「適切な」対応を取るべく、「あらゆる選択肢」を検討すると表明した。だがワシントン・ポスト紙は、現実として日本の選択肢はほとんどないとの見通しを示している。

記事は日本が報復関税を導入する可能性も否定していないものの、専門家は、日本の反撃の難しさを指摘する。日本の経済が輸出依存の体質であり、また、アメリカとの安全保障同盟を損なう恐れへの懸念があるためだという。

ニューヨーク・タイムズ紙は、日本がアメリカへの報復に消極的な背景に、国内のインフレが影響しているとみる。日本の対米輸入品は主に天然ガスや農産物などの必需品だ。ムーディーズ・アナリティクス東京のシニアエコノミスト、ステファン・アングリック氏は同紙に、「これらに報復関税を設けると(当該品目の価格上昇で)日本自身が苦しむことになるため、現実的な選択肢とは言えない」と述べている。