太平洋戦争末期、劣勢に立った日本軍は反撃の手段として特攻作戦を開始する。ノンフィクション作家・早坂隆さんの『戦争の昭和史 令和に残すべき最後の証言』(ワニブックス【PLUS】新書)より、海軍が準備していた極秘部隊「伏龍隊」の元隊員の証言を紹介する――。(第2回)
元隊員が語る「幻の特攻部隊」の正体
特殊な潜水服に身を包んだ隊員たちは、暗い海底でひたすら敵の船艇が接近して来るのを待つ。彼らは炸薬の付いた「棒機雷」を手に持っている。これで敵の船艇の船底を下から突き上げることが、彼らに託された軍務である。
当然、この攻撃を実行に移せば、その兵士の肉体は四散する。言わば「人間機雷」。海軍の中でも極秘中の極秘の扱いだった「伏龍隊」の実態は、未だあまり知られていない。「幻の特攻部隊」とも称される。
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伏龍隊の元隊員である片山惣次郎さんは昭和3(1928)年11月25日、長野県の吾妻村(現・南木曽町)で生まれた。父親は大工だったが、副業として養蚕や農業を営んでいた。片山さんは岐阜県の中津商業学校に進学したが、昭和19(1944)年の春から学徒動員となり、各務原にあった川崎航空機工業の工場で働くことになった。その後、片山さんは海軍飛行予科練習生(予科練)に志願した。
「すでに予科練に入っていた先輩が、学校に来たことがありましてね。その時、金ピカの『七つボタン』が、随分と格好良く見えました」