冒頭の炭素繊維の事例が端的に示すように、EUには自らの都合でルールを頻繁に変える傾向がある。日本はEUとの間で2019年2月に経済連携協定(EPA)を発効させているが、日本の対EU貿易が盛り上がりを欠くのは、そうしたEUの一貫性の無さによるところが大きい。つまりEUはEUで、米国と同様に、不確実性を抱えている。

2025年3月2日に行われた「Securing Our Future」ロンドン・サミットの参加者
2025年3月2日に行われた「Securing Our Future」ロンドン・サミットの参加者(画像=Christophe Licoppe, © European Union/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

インドも実利的であるから、こうしたEUの不確実性を理解しているだろう。米トランプ政権による圧迫があるため、インドもEUとの関係の緊密化には前向きと判断される。しかし、それはあくまで「敵の敵は味方」の理屈であり、自らの都合でルールを変えるEUに対して、インドは一定の不信感と警戒感を持っていると考えられる。

EUを「自由貿易の旗手」とは言えない

そもそも自由貿易体制は、戦間期のブロック経済の取り組みが第二次世界大戦を招いたことへの反省から、米国が主導して作り上げたものだ。その米国もまた、世界の自由貿易体制に組み込まれている。トランプ大統領の問題は、その仕組みを理解しないまま一方的な見直しを図っている点にある。ゆえに大統領の思惑通りには事が進まない。

自由貿易体制を維持することは、日本のみならず世界経済にとっての最優先事項だ。その意味で、日本は中国やEUを含めた諸外国と協力する必要があるが、一方で各国にはそれぞれ思惑があることも事実である。中国が自由貿易体制を重視する最大の理由は、過剰生産能力を抱えていることにある。その解消のためには輸出が欠かせないからだ。

EUはEUで、貿易にその価値観を反映させる傾向が強い。一般的には貿易障害だと考えられることも、自らが普遍的だと定める価値観に基づき、それを正当化する。EVシフトしかり、今般議論されている炭素繊維の取り扱いなどが、そうしたEUの姿勢を端的に物語っている。EUが自由貿易の旗手であるという評価は必ずしも当たらない。

確かに米国への対応で日本を含めた世界各国が連帯する可能性も意識されるが、同時に各国の利益誘導に向けた動きも加速するのではないか。外需産業に支えられている日本としては、そうした各国の思惑が先行する中で不利益を被ることがないように、米国のみならずEUや中国に対しても粘り強い働きかけが求められるところである。

(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)

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